教授コラム

2023年07月30日

Evidence-based pathology

Evidence-based pathology

『Evidence-based pathology』という言葉があります。世界保健機関による腫瘍組織分類も現在はこの考え方に基づいて作成されています。科学的視点から病態を理解して疾患の枠組みをつくるという意味においてはこれは正に正義といってもよい思想であるといえます。では実際の病理診断はどうか。

ここで私たちが忘れてはならないことは、医療の現場における病理学、すなわち病理診断学はアート(作法)に基づくということです。様々な局面で、情報が限られている、あるいは錯綜する中で、最適な治療を模索するためのチャートが病理診断であるとすれば、当然のことながら『科学』が実践できない局面が多々あるということは認めなければなりません。つまり、病理診断において科学的基盤は重要ではあるものの、科学そのものではないといわざるを得ません。これはとくに生検診断の場合にいえます。

最適な病理診断のためには病理医としての経験(実務)と知識に加えて、論理的思考が不可欠で、そのアプローチはまさに臨床推論そのものです。ですから、前提すなわち病理診断を依頼した医師が提供した情報や患者の容態が変われば、あるいは新たな臨床情報が加われば、病理診断は修正される可能性があります。そして、病理医はその修正を恐れてはいけません。

よく病理診断は『最後の診断 Final Diagnosis』とよばれることがありますし、病理医は『医師の医師 Doctor's doctor』であるといわれることがありますが、これらは必ずしも病理診断学の事実を表していません。病理診断は病理医と担当医、関連部門に所属するスタッフの共同作業であることは理解しておく必要があるでしょう。

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