診断 : 悪性ブレンナー腫瘍(Malignant Brenner tumor)(卵巣原発)
【臨床事項】
卵巣ブレンナー腫瘍は、上皮性腫瘍に分類され、全卵巣腫瘍の2~3%を占める。その多くは良性であるのに対して、悪性ブレンナー腫瘍はブレンナー腫瘍全体の5%以下に過ぎず、非常に稀な腫瘍である。
悪性ブレンナー腫瘍の大部分は片側性で、大型の充実性腫瘤を形成するが、一部で嚢胞を伴うことが多い。組織学的には高異型度の尿路上皮癌(移行上皮癌)に類似しているが、粘液性分化、扁平上皮への分化を示す。定義上は良性あるいは増殖型(境界悪性)ブレンナー腫瘍が併存している。すなわち、これらの成分を確認することが診断確定に必須要件となる。良性あるいは増殖型ブレンナー腫瘍の併存がない場合には移行上皮癌と診断されていたが、その本体は高異型度漿液性癌ないし類内膜癌であると考えれるようになり、2014年に改訂されたWHO分類(第4版)では移行上皮癌は削除された。
【腹水細胞像】
N/C比の高い異型細胞が孤在性、あるいは集塊を形成した状態で多数出現している。細胞質は網状、ライトグリーン好性、核の大小不同、核形不整、顆粒状クロマチン増量が認められる。特徴的な細胞所見として、①扁平上皮様細胞、②細胞質内粘液含有細胞、③変性空胞、④多核細胞、⑤核内封入体、が挙げられる。良性ブレンナー腫瘍でしばしばみられる核溝は本例の腹水中では観察されなかったが、多彩な細胞形態を示すことが、悪性ブレンナー腫瘍である可能性を示唆している。
腹水中に扁平上皮様細胞を含めた多彩な像を認めた場合は、悪性ブレンナー腫瘍も念頭に置くことが重要であると考えられる。