<解説>C15-003 腹水、60代、女性
診断 : 低異型度漿液性腺癌(Low-grade serous carcinoma)(卵巣原発)
近年、卵巣漿液性癌は遺伝子的背景、発生過程、臨床病理像の違いにより低異型度漿液性腺癌 Low-grade serous carcinoma (LGSC) と高異型度漿液性癌 High-grade serous carcinoma (HGSC) に分けられるようになった。 漿液性腺癌の90%以上はHGSCであるのに対して、LGSCは漿液性腺癌全体の5~10%程度を占めるに過ぎず、実際に遭遇することは少ない。LGSCは境界悪性腫瘍を母地として発生し、緩徐に発育するため、予後は比較的良好であるが、化学療法の反応性が低いことが知られている。

腹水ではリンパ球、組織球を背景に、著明な細顆粒状クロマチン増量を示す小型類円形細胞のシート状~重積性を示す細胞集塊が認められる。構成細胞は小型でN/C比が非常に高く、核は円形~類円形で、核に切れ込みや不整がみられ、集塊中では多数の砂粒小体(psammoma body)が認められる。
LGSCでは腫瘍細胞が小型で異型に乏しいため、しばしば子宮内膜症や小型の中皮細胞の集塊などの良性疾患との鑑別が問題となる。LGSCを示唆する所見としては、①出現細胞量が多い点、②砂粒小体の出現、③核クロマチン増量、④核の鮮明さ、⑤核小体がみられる点、などが挙げられる。これらの所見に留意したうえで鏡検することにより、本疾患を見落とさないことが大切である。