<解説>H16-006 卵巣 42歳、女性(子宮腫瘍を指摘され、子宮全摘出術と両側付属器切除が施行された)
診断 : 輪状細管を伴う性索腫瘍 Sex-cord tumor with annular tubules
 本症例では子宮頸部の腫瘍は胃型腺癌(gastric-type adenocarcinoma)であることが確認された。患者は Peutz-Jeghers syndrome(PJS)である。
 輪状細管を伴う性索腫瘍 sex cord tumor with annular tubules(SCTAT)は稀な性索間質性腫瘍で、性索間質性腫瘍全体に占める割合は1%未満である。約1/3は PJS の患者で認められる。従って、子宮頸部の胃型腺癌の亜型である最小偏倚腺癌(いわゆる悪性腺腫 adenoma malignum)を合併することがある。一般的には PJS 非合併例では腹部腫瘤や不正性器出血など卵巣腫瘍による一般的な症状を呈するが、PJS合併例では症状がなく偶然見つかることが多い。PJS 合併例は良性だが、PJS 非合併例の約20%は悪性である。
 PJS合併例では両側の卵巣に多発し、顕微鏡的サイズであることが少なくない。しばしば局所的あるいは広汎な石灰化がみられる。これに対して、PJS 非合併例では片側で腫瘍径が大きい。充実性、黄白色、限局性の腫瘤で嚢胞を伴うことがあり、石灰化はみられない。SCTAT の中にはプロゲステロンやエストロゲンを産生するものがある。
 組織学的には、線維性間質を背景として、単純または複雑な輪状細管の集簇巣が出現する。単純な輪状細管では好酸性の硝子体を取り巻くように腫瘍細胞が配列し、車軸様の外観を示す。複雑な輪状細管は単純な輪状細管の集合体で、多数の硝子体の周囲で互いに連続する複雑な細胞の輪で構成されている。PJS 非合併例では硝子体を伴わず、セルトリ細胞腫や顆粒膜細胞腫と類似した像がみられる。免疫組織化学的にはビメンチン、サイトケラチン、α-インヒビン、カルレチニン、FOXL2、SF-1、WT1、CD56 が陽性である。
 電顕的には腫瘍細胞の細胞質内で核近傍に縦走する密なフィラメントである Charcot-Bottcher filament が観察され、また desmosome-like junction を認める。