<解説>C15-007 蝶形骨洞内腫瘍(捺印細胞診)、60代、男性
診断 : 脊索腫(Chordoma)  
脊索腫は、脊索への分化を示し、緩徐に発育する低悪性度の腫瘍で、仙骨部、頭蓋底に好発する。遺残脊索組織(notochordal rest)から発生すると考えられているが、全ての脊索腫が遺残組織から発生するという証拠はない。原発性の悪性骨腫瘍全体の3~5%を占め、骨肉腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫に次いで4番目に多い。
好発年齢は50~60歳で、中高年において頻度が高いが小児期にも発生し、先天性の例もあるため注意を要する。前述のように発育は緩徐だが、肺、肝、骨などへの転移が稀ではなく、髄液播種を生じることもある。
組織学的には細胞質内空胞を有する細胞(担空胞細胞 Physaliforous cell)が細胞外粘液基質を背景として索状あるいは充実性シート状に増殖している像が特徴だが、細胞密度は腫瘍によって、あるいは同一腫瘍の中でも部位によって様々である。核は種々の程度の大小不同、核形不整、クロマチン増量を示す。
形態的には、① 通常型脊索腫 (classical chordoma) ② 軟骨様脊索(Chondroid chordoma ) ③ 脱分化型脊索腫(dedifferentiated chordoma)に分類される。

本症例の捺印細胞診では、背景は粘液基質に富んでおり、細胞質内に大小の空胞を有し、類円形の核を有する 担空胞細胞が平面的な集塊を形成して出現していた。軽度の核縁不整がみられ、クロマチンは顆粒状で、小型の核小体も認められた。また、一部ではライトグリーン好性の細胞質を示す細胞も出現していた。
症例によっては、担空胞細胞が乏しく、小型で異型の乏しい星芒細胞(stellate cell)しか認められない症例もあるが、殆どの症例で担空胞細胞が認められるため、その存在に注目することにより脊索腫の細胞診断は可能である。