<解説>H16-004 上行結腸生検 50代、男性 腹痛を主訴に来院

Warthin-Starry 染色

診断 : Intestinal spirochetosis(腸管スピロヘータ症)
ヒト腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis)はブラキスピラ属のグラム陰性らせん状桿菌による感染症である(Treponema pallidum とは全く異なる細菌で、梅毒とは無関係である)。ヒトに感染するのは Brachyspira aalborgi、Brachyspira polosicoli で、前者はヒトと高等霊長類のみに感染するのに対して、後者は広く分布し、人畜共通感染症として知られている。直腸生検などでときに認められる病変で、その頻度は欧米諸国では2~7%、発展途上国では11~34%で、同性愛者やHIV感染者では54%に達するという報告がある。好発部位は右半結腸である。生検で偶然認められることが少なくなく、その場合の臨床的意義は必ずしも明らかでない。すなわち、病原性は殆どなく、殆どは保菌者の状態であると考えられるが、稀に重篤な腸炎を引き起こすことがある。大腸内視鏡では粘膜の充血、びらんを伴うことがある。組織学的にはHE染色標本で表層上皮にらせん状の桿菌が羽毛のように付着し、灰白色~灰色の薄い層を形成している。この層はPAS反応、Warthin-Starry でより明瞭に観察することができる。電子顕微鏡では桿菌が微絨毛の間でこれと平行の向きで付着している像が認められる。細胞質内に侵入することはない。粘膜固有層では軽度の炎症細胞浸潤が認められる。除菌を目的としてメトロニダゾールが用いられることがあるが、無症状であるためにそのまま経過観察となる例が多い。