<解説>H15-007 左前腕腫瘤(切除生検) 60代、男性

HMB45(免疫組織化学染色)

診断 : Clear cell sarcoma of tendon and aponeurosis(Malignant melanoma of soft part)
明細胞肉腫は 1965 年に Enzinger らによってはじめて記載されたもので、メラニン産生能を有する腫瘍細胞で構成されることから、しばしば 軟部悪性黒色腫(malignant melanoma of soft part)とよばれてきたが、遺伝子的にも生物学的にも皮膚原発の悪性黒色腫とは異なる腫瘍であることが明らかにされている。四肢遠位部の深部軟部組織に好発し、約70%の症例では第12染色体と22染色体の相互転座、t(12;22)(q13;q12)が認められる。これにより EWSR1、ATF1 の2つの遺伝子が融合し、キメラ遺伝子が形成される。融合遺伝子がコードする蛋白は MiTF 遺伝子のプロモーター領域に結合してこれを活性化し、メラニン産生を誘導する他、腫瘍性増殖の引き金となる。20~40代の若年に好発し、平均年齢は30歳である。足・足関節、膝、大腿、手などに発生する。緩徐に増大して腫瘤を形成する。ときに痛みを伴う。

肉眼的には腱ないし腱膜にかたく癒着する分葉状ないし多結節性の腫瘤を形成し、腫瘍径は 2~6 cm 程度である。割面は灰白色ないし白色調、出血・壊死、嚢胞様空隙の形成を伴うことがある。黒色調を呈することは少ない。組織学的には淡明ないし淡好酸性の細胞質を有する紡錘形細胞の束状増殖で構成されるが、束の間に線維性間質が介在し、いわゆるコンパートメントとよばれる構築を示す。核は空胞状で、好塩基性の明瞭な核小体を有する。腫瘍性の多核巨細胞も散見される。紡錘形細胞の細胞質内にはメラニンが存在しているが、HE染色標本では不明瞭であることが少なくない。そのため、フォンタナ・マッソン染色などが必要となることがある。免疫組織化学的にはS-100蛋白、HMB45、Melan-A、Mel-CAM、MiTF などが陽性である。