2つの病理診断 Two Diagnoses for One Case ?

2018年04月14日

2つの病理診断 Two Diagnoses for One Case ?

病理診断は近年、臓器あるいは疾患ごとに高度な専門化を遂げています。そのため、一般の病理医と個々の領域における専門家、いわゆるエキスパートとよばれる病理医の診断が異なることがあります。また、病理専門医の資格を持たない外科や内科などの診療科の医師の中にも、自分たちが扱う臓器や疾患の病理診断学に精通している方々がおられ、病理医の診断を修正して治療を進める、ということが実際にあります。臨床検査データや経過が合致しないという理由から診断に関する疑義が生じ、診療科医師が標本を他の施設のエキスパートである病理医にコンサルテーションを依頼し、その結果診断が修正されることもあります。従って、症例によっては一人の患者の同じ標本をみているにもかかわらず、2つ(あるいはそれ以上)の診断が存在することになります。

法律上は医師の資格を有していれば、病理専門医でなくても病理診断を行うことができます。しかし、社会通念上、あるいは医療に対する患者の不審を招く可能性があるため、2つの診断が存在しつづけるという事態は避ける必要があります。このような問題への対応はそれぞれの医療施設に委ねられていますが、全く対策がなされていない施設も少なくないのが現状です。その理由は、この問題があまり広く認知されておらず、コンセサスやガイドラインのようなものがないためです。

この問題を解決するためには、私は病理医と当該症例を担当する診療科の医師が診断に関して協議を行い、診断の修正や変更が必要であると判断された場合はそれを電子カルテ上に記録として残すのがよいと考えています。実際に私が以前勤務していた京都大学のある診療科では、定期的にカンファランスを行い、出席した病理医と診療科長が診断に関して協議した内容が電子カルテに記載されていましたが、診断が変更される場合にはその根拠が明示されました。このようにすることで、病理医の診断と異なる第2の診断が一人歩きすることを避けることができます。

これに関連することとして、臓器別、疾患別に様々な学会や研究会で開催される『症例検討会』の問題があります。これは病理組織標本を持ち寄って診断に関する議論を行うというもので、病理医だけではなく、関連診療科の医師が主導して開催することがあります。多くの場合、当該領域の病理診断に精通したエキスパートである病理医がコメンテーターとして診断意見をのべたり、治療に関する助言を与えます。この『症例検討会』自体は大きな学びの機会であり、私自身もコメンテーターとして貴重な症例の標本を拝見させていただき、勉強をさせていただくことがしばしばあります。従って、病理診断の質を向上されるための1つのツールであると考えることもできます。しかし、ある施設で確定された病理診断がこの『症例検討会』で覆り、誤りであったことが判明することがあります。中には治療方針を変更する必要が生じる例もあります。このようなことが治療が開始されてから数ヶ月経過してから起こるとすれば、大きな問題となります。『症例検討会』における診断意見の取扱い、医療施設の対応の仕方も考えていく必要があります。

▲ PAGE TOP